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| Have Fun ! |
| 辰巳 英樹 | 彼岸の島へ | 400字詰原稿用紙 約92枚 |
| 著者敬白／「某文学新人賞の最終候補（受賞作なし）まで残った作品です。愛着のある作品ですが、いつまでも温めていてもねえ……」 | 「貴様の小銃を返しにゆくから待っていろ」――ゲートボールのトラブルが、やがて町内を揺るがす抗争に発展する。著者得意の戦争経験者老人モノの原点となった記念すべき作品。 ※著者インタビューページへ |
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| 作品冒頭 | ||
未明のまどろみの中で、〃男〃は夢と現の境をさまよっていた。蒲団の肌触りをたしかに感じながらも、眼前に開ける風景に目を奪われている。 水平線の彼方から常に吹きつける偏西風は椰子の葉を揺らすとすぐに、島の中心に聳えるタッポーチョ山で二つに切り裂かれて島の西岸に横たわるリーフを吹きすぎてゆく。 サイパン。 北回帰線以南に位置するため黄道は蒼穹を二分し、砂浜を、ジャングルを陽光が灼く。兵舎の窓に四角く切り取られた空からは急速に成長しつつある輝く積乱雲が見える。潮騒と野鳥のさえずりが熱帯雨林気候ならではの情趣を添える。 ――これなのだよ。 〃男〃は口許をゆるめて頷いた。夢であることはわかっているし、その風景は二度と見ることができない半世紀以上も前の映像であることも知っている。 こんな夢は年に一、二度ほどだ。まだ見つづけられるものなら、一日蒲団にくるまっていてもいい。ゲートボールなんかサボったってかまわん。 タッポーチョ山からの眺望、林立する高射砲の威容、タナパク港の落陽。それらの風景をたぐりよせているうちに、〃男〃は深い眠りに引き込まれていった。 夜明けを待たずに降り始めた秋雨は夜になってもやまず、庭石をやわらかくたたいている。 かけおわったＤＶＤをケースに戻す大宅義夫の白髪頭を眺めながら、柘植匡はモノクローム映像の余韻にひたっていた。ゲートボールが流れた日の夜にはかならず大宅から名画鑑賞会のお呼びがかかる。 大宅自慢のホームシアターには、プロジェクターが据えつけられ、八十インチのスクリーンに映像を投射する。高級オーディオセットと相まって、映画館よりも迫力があるほどだ。誘いがあると、うきうきしながらこの隠居屋へ急ぐのがきまりだった。 |
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