作品のダウンロードは、LHAまたはZIPの文字をクリック。ダウンロード後は展開（解凍）が必要です。作品は基本的にプレーンテキストですから、ほとんどのアプリケーションで開くことができます。

【ご注意】
作品に関するすべての権利は著者に帰属します。作品の全部または一部の無断複製・転載を禁じます。
個人利用の目的以外に使用しますと著作権法違反で処罰されます。
Have Fun !
陶 広志 菩薩の宴 400字詰原稿用紙
約310枚
著者敬白／「登場人物にひねりを加え、身近な恐怖をテーマに描いてみました。新興住宅地特有のもつ排他的な空気は邪教の受け皿に最適かも」 真言立川流三部作パート２。大阪の、とあるベッドタウンに蔓延する邪宗門の存在を、一匹狼の風俗ライターが嗅ぎつけた。妻を教団に奪われた住人とタッグを組み、絶望的な闘いに挑む。
※著者インタビューページへ		 【ダウンロード】

ZIP
作品冒頭

　その言葉が受話器から耳に流れこんできた瞬間、白戸和明は小さく息をのんだ。え、と聞き直した。
「こちらは森川産婦人科ですが、白戸さんのお宅に間違いありませんよね」
　その若い事務的な口調は、産院からというより銀行からの電話のようだ。「ええ、白戸ですが、何か？」
「奥様いらっしゃいますか」
「久美……ですか？」
「いらっしゃるんですか」
　廊下の突き当たりにあるバスルームから派手な水音が響いてくる。久美は洗髪の最中らしい。
「いま、ちょっと手を離せないんですが……どういったご用件で？」
「ご主人ですか」
「ええ、白戸和明です」
　困ったような溜息を女は洩らし、すぐに言った。「術後の経過をお尋ねしようと思いましてね。もちろん形式だけなんですが、当院の規定でして。掻爬とはいえ、いちおう手術ですので」
「ソーハ？　ソーハって何です」
「中絶手術ですよ、先月の」
　背筋から首筋、そして頭皮に鳥肌の波が広がるのを感じながら受話器を握り直した。
「はあ。わかりますわかります」
「どうなんです？　異常はありませんか、出血とか、痛みとか」
「ないようですよ」うわずりかける声を抑え、平静さを装った。「おかげさまで」
　産院からの電話が切れても、白戸は受話器を下ろすことができなかった。腕がこわばっていた。
　久美は堕胎手術を受けていた。そんなことがあるわけはない。間違いか、それとも誰かの嫌がらせか……。思いにならない感情の揺れが脈拍を速くした。

ライブラリートップへ
Library NAVIGATIONへ
新刊書架へ
★AZUSA PremieR★書架へ
蔵書目録へ

Web Publishing AZUSA (C)2003  All rights reserved.