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| Have Fun ! |
| 草野 薫 | 灼熱隧道 | 400字詰原稿用紙 約85枚 |
| 著者敬白／「運転しているとき、『もし、ここで地震が起きたら……？』という妄想を小説にしました。阿蘇山も近いし、あながち突飛な筋立てではないと思います。 | 隧道（トンネル）の数では日本屈指の九州自動車道を地震が直撃！ 崩落寸前のトンネル内で繰り広げられるサバイバル。進むも地獄、戻るも地獄。生き延びるのは誰だ！ | 【ダウンロード】 ZIP |
| 作品冒頭 | ||
巨大な牛乳罐を模したタンクを積んだトレーラーが方向指示ランプをいきなり明滅させ、強引に車線を変えた。 タンクローリーのすぐ後ろについていたカローラが小さくブレーキをかけた。 「ば、ばかやろう！」 重たげに尻を振りながら去ってゆくトレーラーを、弥島《やじま》武司はフロントグラスの内側から睨みつけた。あと一秒の半分もブレーキペダルを踏むのが遅れていたら、カローラのバンパーを持っていかれていた。 背筋を疾り抜けた悪寒が微熱へ転じた。からだの末端が熱くなる。耳が聞こえづらい。武司はカーラジオのヴォリュームを上げた。九州訛のアナウンサーの声が車内に充満する。 スピードを落としたままのカローラを、数台の車が追い抜いてゆく。タンクローリーのタンクに描かれた乳牛の絵とＭＩＬＫという文字はもう見えない。 「うるさいわね」だらしなくまどろんでいたアケミがカーラジオの音に目をあけた。倒した助手席からからだをよじり、ラジオを消した。「まだ一時間も寝てないのよ、あたし」 「やばかった……。かなりやばかった」 放心したように呟く武司に一瞥をくれたアケミははっと息を嚥み、シートに深くからだを沈めた。ドアミラーに早い目を飛ばす。 「やつらなの？ もう、やつらがやってきたの？」 武司は答えずに、しきりに唇を舐めている。やつらが来たんじゃない。アケミはそう直感した。二十三になったばかりの小僧が追手を発見して、こうも落ち着いていられるはずはない。アケミは溜めていた息を吐いた。 「ねえ、タケシ。ねえったらあ」 真紅のマニキュアを塗った指先を武司の股間に這わせ、ジーンズのジッパーに指を掛けてそろそろと下ろす。 ちらとアケミを見下ろした武司の眸に冷たいものがよぎった。今しがたの接触事故すれすれの恐怖に、脳に詰まっていた重い霧が一瞬間、破れた。 ――こぎたねえばばあじゃねえか。 妙に鮮やかな囁き声が鼓膜の奥に直接ひびいた。 |
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