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| Have Fun ! |
| 齋藤 隆 | ジ・オプションズ | 400字詰原稿用紙 約77枚 |
| 著者敬白／「大昔の作品です。今はIT革命なんて言いますが、いつの時代もおじさんは大変なんですよね。寓話として読んでください」 | ワープロ専用機黎明期の回顧譚。会社の起死回生のためワープロを導入した零細広告製作会社だったが、場当たり的な計画のせいで社員たちはワープロの周辺機器と化してゆく。 | 【ダウンロード】 ZIP |
| 作品冒頭 | ||
リースの契約書をしまいこむと、その営業マンはブリーフケースの留め金をぱちんとかけた。 「マシンに関してご不明な点などございましたら、システム販売の方へご連絡くだ――」 「だいじょうぶだって」デスクの上の真新しい機械に期待の視線を走らせながら、社長の秋本信彌は営業マンの話を遮った。「うちの若い者に特訓を受けさせてあるから」 ぼくのことだ、と坂田宏はデスクから顔を上げた。あの苦しい、地獄のような三か月は今日のためにあったのだ。 五人いる社員のうちでいちばん若い二十四歳の坂田は、秋本のひと言で、あるビジネススクールの開催するワープロ速習コースを受けさせられたのだった。生来、器用なほうではない彼は泣きそうになりながら通いつづけた。オフィス・オートメーションだかなんだか知らないが〃秋本クリエイト〃のような零細広告代理店までが世聞の流行に踊らされることはないではないかと何度も思った。しかし、そう言い出せないままに三か月が過ぎ、講習が終わる頃にはどうにかワープロを打てるようになってはいた。 それでは、と言って営業マンが部屋を出ていくと、それを待っていたかのように秋本が腕組みを解いた。 「みんな、こっち来い」 事務所のスタッフを見回してにんまりと笑った。 「ついに来たぞ、救世主が。あははほはほ」 四人の社員がのろのろと立ち上がり、秋本を囲んだ。たしかにその機械は救世主となるかもしれない。 秋本アドサプライ。創業六年目にして初めて舞い込んだ大口の仕事だけに、うまくこなせば博広堂の信頼を得、仕事は順調に来るだろう。残業手当なし、社会保険なし、給与遅配の生活から脱出することができるかもしれない。ただし、企画書やイべント・マニュアルなどの膨大な書類をすんなりと納入できればであるが。 「二か月ある」秋本は自身に言い聞かすように、ゆっくりと言った。「榊原がみんなを指導してくれれは、今度の仕事は軽いもんだ。最新型のワープロ、そしてエキスパートの榊原……。鬼に鉄棒だな」 「えっ、わたしたちもやるんですか」蓮谷が歯い目を見開いた。 「そりゃそうだ。専務には頑張ってもらわないとな」秋本は一同の顔を見回した。「一致団詰してことに当たろうな。これがうまくいけば会社の未来はバラ色よ。みんな幸せになろうな」 |
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