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| Have Fun ! |
| 齋藤 隆 | 前線事務所 | 400字詰原稿用紙 約89枚 |
| 著者略歴／1962年、大阪出身。広告代理店、広告制作会社を経て、現在はフリーライター。寡作だが、時代を切り取る眼と筆力に定評がある。 | 大晦日の都心部を恐怖に叩き込んだテロリスト集団が雑居ビルに立てこもった。ビルに取り残された零細企業の社員たちの脱出作戦にタイムリミットが迫る。映画『ダイ・ハード』以前に書かれた籠城サスペンス。 | 【ダウンロード】 ZIP |
| 作品冒頭 | ||
デパートは、暮れの買物客でにぎわっていた。とくに地下の食料品売場の混雑は尋常ではなく、おせち料理の材料を一堂に集めたコーナーには幾重にも人だかりができている。 その熱気とはまるで無関係に、精肉コーナーの冷蔵ケースの底に隠された水晶発振型のタイマーは昨夜来の減算を終わろうとしていた。百貨店の開店から六十分経ったとき、六十進法の引き算がゼロになった。プログラムどおり一・五ボルトの電圧がワイヤーを伝って電気信管に到達した。 起爆薬を発火させて時限タイマー・ユニットは役目を終えた。 炎をはらんだ突風が一瞬のうちに地下食料品売場を疾り抜けた。火焔とともに牛、豚、鶏の肉片が放射状に飛び散った。食肉ばかりでなく、買物客の肉片も混ざって散った。 同時刻、やはり都心の、人の出入りの激しいファッション・ビルと大手私鉄のセンター・コンコースで時限爆弾が炸裂した。 犯行声明は即座に発表された。強力な電波を使ってＶＨＦローバンドに割り込んだのだった。グループの名は“リンク”という。 今回の破壊工作は宣伝活動だと彼らはうそぶいた。“リンク”にイデオロギーはなく、純然たるプロのテロリスト集団だった。全員無傷で東京を脱出することを宣言し、我々を求めるなら連絡されたしと、英・仏・独・韓・露の五か国語で締めくくった。 十二月二十七日、午前十一時十五分のことであった。 「どこ見たって同じですよ」 チャンネル変えてみろよと言われて、五人の中でいちばん若い丸尾孝が、応接机の上のリモコンを把った。どの局も、報道特別番組とテロップを出して爆弾テロの映像を流している。次々と担架で運ばれる負傷者や、慌しく動き廻る制服警官を揺れるカメラが追っている。 場面が変わり、レポーターが現れた。 『こちらは古井戸三丁目駅前です』上気した顔で白い息を吐いていた。『ご覧ください。現在、都心のすべての駅には、予測される爆弾テロに備えて機動隊員が警備しております』 カットが切り替わり、おもだった駅の映像が映る。駅職員が車輌を点検している。 「とっくに爆弾は仕掛けられてるんじゃないかな」 黙ってテレビを眺めていた雨宮が口を開いた。 「いやなこと言わないでくださいよ」 |
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