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| Have Fun ! |
| 小松 仁 | 笑わなしゃあない | 400字詰原稿用紙 約91枚 |
| 著者敬白／「携帯電話って、なんかムカつく。話すことではなく、語ることが肝心じゃないかなというのがテーマです。これは半分実話です」 | パソコンのトラブルで、完成間近い卒論が消えた……。締切の猶予と引き替えに朗読ボランティアを約束させられた章太朗だったが、活動を続けてゆくうちに内面の変化が訪れる。 | 【ダウンロード】 ZIP |
| 作品冒頭 | ||
椙本章太朗は、コンピューターディスプレイから視線をそらせた。夕方からキーボードを叩きっぱなしだったため、室内がこれほど静かだということに気づかなかった。 郊外のベッドタウンとはいえ、駅に近いワンルームマンションに静寂は無縁のものだ。建物の前の二車線道路の交通量は多く、朝は新聞配達のバイク、昼間から夜半にかけて営業車とつづき、夜遊び帰りのバイクのエンジン音が消えるのが午前三時頃。そして、すぐに新聞配達。五階のこの部屋にいてもそれらの音がはっきりと聞き分けられる。 午前二時をまわったばかりの今、無音であることはとてもめずらしい。椅子から腰を上げると、からだの節々がぽきぽきと音を立てる。四時間近く、卒論にかかりきりだった。 換気と気分転換を兼ねてサッシュ窓を開けた。 白いものがまっすぐに落ちていた。 予報では霙になると言っていたが、寒気が厳しくなったらしい。牡丹雪が室内の照明に一瞬、切り取られ、階下の闇に消えてゆく。 「降ってきちゃったねえ」 滋賀県生まれの章太朗に雪はけっしてめずらしいものではなかったが、十二月の初旬に南関東で雪がみられたことには驚かされた。 こういう夜は、暖房器具を消して重ね着をし、開け放った窓の脇で熱燗をちびちびやるのが最高だ。最高なのはわかっているが、卒論の締切が三日後に迫っている。締切時刻を一秒でも過ぎると留年決定。ここは我慢のしどころだ。我慢のしどころではあることはわかっているが、今夜は快調だった。論文の三分の二はできた。このぶんでは明日の夕刻には完成する。参考文献一覧を明後日の夕方までに仕上げ、全体を校正したらプリントアウトして正副計二部、製本するだけだ。明日の朝から続きを書いても余裕で間に合う。 「雪見酒まつり、決定！」 |
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