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| 小松 仁 | 青田買い | 400字詰原稿用紙 約82枚 |
| 著者略歴／市役所勤務。42歳。平凡で退屈な毎日の憂さ晴らしに小説を書きまくる。80〜100枚程度の小説が得意。「現在のストック50本」と豪語。 | 就職内定。大学卒業を待つばかりというお気楽な状況にビッグトラブル！ このままでは退学、そして内定取り消しは確実だ。人生最大のピンチに直面した青年が打った手とは？ | 【ダウンロード】 ZIP |
| 作品冒頭 | ||
就職協定消滅後、青田買いという言葉は死語になり、企業の求人動向はなりふりかまわずという案配になっている。 ビールをうまそうに呷る真一郎を見ていると、いわゆる青田買いもそう悪いものではないのではないかと私は思う。 真一郎は、私の姉の長男――つまり甥だ。姉の住まいと私の会計事務所は同じ市にあるから、真一郎はよくここに遊びに来る。最初は姉の押すベビーカーで我が家にやって来、つぎに自転車、やがてオートバイ、そしてついにきょうは買ってもらったばかりという自分の車でやってきた。泊まるつもりですから、とさっきからビール大瓶を四本も空にしている。 地元の国立大学に通う真一郎の六月からの会社訪問が実を結び、ついにＦ商事に内定が決まったのだ。一昨日が内定式だったという。Ｆコンツェルンの関連企業のなかでも、商事部門は安定して業績を伸ばしている一流企業だ。その本社に採用が決まったのだ。 姉や、義理の兄の喜びようはすさまじかった。義兄などはあまりのうれしさに真一郎に車を買ってやったくらいである。もっと気のきいたプレゼントがありそうなものだと私は思ったが、何も言わずにいた。 義兄は平凡きわまりないサラリーマンで、私にとってはまるで面白みのない男だ。真一郎もまた父親に魅力は感じてはいないらしく、なにかといえば叔父の私の家に遊びに来る。 若い頃に職を転々としながら公認会計士の試験を受けていたせいか、甥は私を経験豊かで頼り甲斐のある叔父だと思っているらしい。たしかに、真一郎の父親よりは面白みのある男だろう。こんな大人もいるのだということを、甥に教えることがとても楽しかった。彼に花札を教えたのも私だし、酒を教えたのも私だ。 |
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