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| Have Fun ! |
| 安芸 克也 | シングル・アクション | 400字詰原稿用紙 約95枚 |
| 著者略歴／1955年、千葉県出身。主人公と同じように某食品メーカーの広報課で社内報編集に携わる。現在は社史編纂に追われる日々。 | ジコチューの青年がたどり着いた結論―それは花嫁強奪だった。間違ったポジティブシンキングを活力源に軟派青年が大激走！ 逃走ルートは確保。あとは花嫁を手に入れるだけ。 | 【ダウンロード】 ZIP |
| 作品冒頭 | ||
社内報の入稿締切が切迫しているというのに、依頼原稿の三分の一ちかくが未回収だった。 校正の手を止め、がらんとした広報部社内報課を見回して、薮内慎吾はかぶりをふった。 スタッフは原稿回収のために、午前中から社内に散っている。原稿入手と同時に連絡をよこすよう、四人のスタッフには徹底させているのだが、内線電話はこの三時間、黙りこんだままだ。二十六階建ての本社ビルのどこかに四人はいる。社内報課のスタッフ呼出しのために係長の権限では館内放送を利用することはできない。 朱を入れ終えたばかりの原稿をデスクに投げ出し、薮内は溜息を洩らすと窓辺に歩み寄った。ブラインドの羽根を指先で押し下げると、傾きかけた秋の陽が眼を刺した。「残業か、きょうも……」 下界を見下ろしながら思わず呟きが口をついて出る。 課長の猿渡が辞職してひと月たつ。後任も決まらぬまま、薮内は課長代行ということになった。しかし、三十歳になったばかりの彼にとって、社内報の編集長というのは荷がかちすぎることもまた事実だった。押し出しの強い四十男の猿渡だったからこそ専務クラスからでも原稿を易々と回収できたのだ。 『なめられるなよ』――猿渡の最後の台詞がそれだった。社内報は無用の長物あるいはおまけという見方が社内にはあった。 原稿を頼めば、世界相手の商いに忙しいと断られ、部署に取材に行けば、〃フォーチュン〃誌の記者が来たのかと厭味を言われることもある。また、会社寄りの記事を載せれば組合がうるさく言うし、労働環境についてのアンケートを取れば会社が難色をしめすといったふうで、いかに中庸路線を堅持してゆくかといったあたりが編集長の腕の見せどころでもあり、社内報の味でもある。 だが、それも原稿があればこその話だ。今日じゅうに原稿を集めないと、特集記事に穴があいてしまうことになる。 |
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